2025.08.08
矯正とインプラント、どちらを先に行うべき?順番の考え方と注意点

矯正治療とインプラント治療を同時に検討される患者様は少なくありません。「歯並びも整えたいが、抜けた歯も治したい」といったご相談も寄せられます。
インプラントと矯正は、目的や手順が異なるため、治療の順序を適切に選ばないと、期間や仕上がりに影響を及ぼす可能性があります。一般的には、歯を動かす治療を先に行い、その後に動かせないインプラントを入れる「矯正→インプラント」の順が基本です。
ただし、すべての症例がこの順に当てはまるわけではなく、例外的にインプラントを先に入れる方が適している場合もあります。この記事では、治療順の考え方や例外、注意点について歯科医師の視点からわかりやすく解説します。矯正とインプラントの両方を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
◼︎インプラントと矯正を同時に検討している人は少なくない
近年では、インプラントと矯正治療を同時に検討される患者様が増えています。歯を失ってしまった部分の機能回復だけでなく、「せっかく治療するなら歯並びも整えたい」「見た目の印象もよくしたい」といった希望を持たれる方が多く、機能面と審美面の両立が重視される傾向が高まっています。
とくに、中高年層の患者様にとって、歯の喪失と歯列不正が同時に存在することは珍しくありません。過去に歯を失ったまま放置していたケースでは、周囲の歯が傾いたり移動してしまっていることもあり、そのままインプラントを埋入すると、噛み合わせや仕上がりに影響するリスクがあります。
また、歯を失ったことで生じたスペースをどのように扱うかも重要な判断材料となります。スペースを閉じて矯正で歯を移動させるのか、インプラントで補綴するのか。この選択は、患者様のご年齢や口腔内の状態、将来的な安定性を見据えて、個別に診断すべきポイントです。
当院では、単に「インプラントが必要か」「矯正が必要か」ではなく、お口全体のバランスを総合的に診査し、必要な順序と内容を設計することを大切にしています。歯を1本補うだけでは、全体の噛み合わせや審美性は整いません。インプラントと矯正の両立をお考えの方には、包括的な治療計画をご提案いたします。
◼︎原則:歯列矯正→インプラントの順になる理由
インプラントと矯正治療を両立させる場合、治療の基本的な順序は「矯正治療→インプラントの埋入」となります。これは、インプラントが一度埋入されると、天然歯のように移動させることができない「固定源」となるためです。
矯正治療では、歯列全体を少しずつ動かしながら、理想的な噛み合わせや見た目のバランスを整えていきます。このとき、インプラントがすでに埋入されていると、動かしたい歯がその存在によって制限を受け、歯列全体の調整が困難になるリスクがあります。
たとえば、すでに埋め込まれたインプラントの位置がずれていたり、周囲の歯が倒れていたりするケースでは、本来移動できるはずの歯を矯正で動かせず、理想の仕上がりを犠牲にしなければならない可能性もあるのです。したがって、矯正で歯の位置関係を整えてから、最終的なインプラントの位置を決定するという順序が基本になります。
もちろん、治療を急ぎたい、あるいは咬合の安定が求められるケースなど、例外的にインプラントを先に行うこともありますが、その場合も十分な診査・計画が前提です。動かせないインプラントを後にすることは、審美性・機能性・長期安定性のすべてにおいて非常に重要な考え方といえるでしょう。
◼︎例外的にインプラント先行になるケースとは(支台・仮歯の役割)
基本的にインプラントは矯正後に埋入するのが原則ですが、治療の戦略上、インプラントを先行させるケースも一部に存在します。とくに「インプラントを動かない支点(アンカー)として活用する」目的や、「審美性・咬合機能の早期回復」が求められる場面では、例外的に先にインプラントを埋入する判断がなされます。
たとえば、奥歯を失って長期間放置していた場合、咬合の支えが失われて上下の歯が伸びたり傾いたりしてしまうことがあります。こうした症例では、まず奥歯にインプラントを先行埋入し、矯正治療中の咬合安定や固定源として利用することがあります。これにより、前方の歯を効率的にコントロールできる環境を整えることが可能です。
また、前歯部の欠損で見た目の回復を早急に希望される場合には、インプラントに仮歯を装着し、矯正中も審美性を確保するというアプローチが選ばれることもあります。とくに、社会生活や対人関係に影響を及ぼす部位では、仮歯の役割は非常に大きく、機能回復と審美性の両立という点でメリットがあります。
ただし、こうしたケースでは治療計画の精密さが不可欠です。インプラントの位置がずれると矯正との整合性が崩れ、全体の噛み合わせに悪影響を及ぼす可能性があるためです。例外的判断であっても、歯科医師による十分なシミュレーションと患者様との綿密な相談の上で進めることが求められます。
◼︎治療順序による期間・費用・仕上がりへの影響
インプラントと矯正を組み合わせる場合、治療の順番は「矯正→インプラント」が基本ですが、この順序によって治療全体の期間や費用、仕上がりに大きな影響が出ることを理解しておく必要があります。
まず、治療期間についてです。矯正治療には通常1年半〜2年程度を要し、その後にインプラント手術を行うとなると、全体で2〜3年近くかかるケースもあります。反対に、インプラントを先に行った場合、矯正計画が制限されて動かせない歯が出るため、効率的な歯列移動が困難になることがあります。
次に、費用面について。インプラントと矯正はそれぞれ治療費が発生します。治療順序によって大きな差が出ることは少ないものの、矯正期間の延長や仮歯の使用といった要素により、追加費用が発生する可能性があります。
仕上がりの面では、やはり矯正を先に行う方が自然な歯列設計が可能です。歯を理想的な位置へ誘導したあとにインプラントを埋入することで、噛み合わせや見た目のバランスが整いやすくなります。逆に、インプラントを先に入れてしまうと、その位置が矯正の妨げになる可能性があるため、注意が必要です。
治療の順序ひとつで、完成度や満足度が大きく変わる可能性があるからこそ、初診時の長期的な治療計画を立てることが大切です。
◼︎治療計画を立てる際の歯科医との相談ポイント
インプラントと矯正の両方を検討する場合、最も重要なのは初期の診査・診断の精度と、長期を見据えた治療計画です。どちらを先に行うべきか、どのような手順で進めるべきかは、患者様ごとの歯列・骨格・欠損部位の状態によって大きく異なります。
歯科医とのカウンセリング時には、以下の点を事前に確認しておくと、治療の選択肢や進め方をより明確に把握できます。
●現在の歯並びや噛み合わせの状態
●インプラントが必要な部位と本数
●矯正で動かす歯の位置と範囲
●全体の治療期間と通院回数の目安
●治療順による仕上がり・見た目の違い
●各治療にかかる総費用と内訳
特に重要なのが、「将来の噛み合わせの完成形」をどう描くかという視点です。歯並びだけでなく、機能性(噛む・話す)や審美性(見た目)も含めたトータルな設計が求められます。そのためには、矯正担当医とインプラント担当医が密に連携した治療方針を立てる必要があります。
当院では、事前のCT検査や3Dシミュレーションをもとに、抜歯の要否、歯の移動経路、インプラントの埋入時期などを包括的に検討します。「どちらかだけ」ではなく、「両方を最適な形で」進めることが、長期的な安定と満足につながると私たちは考えています。
◼︎まとめ
矯正とインプラントを組み合わせることで、噛み合わせの機能性と見た目の両方を高いレベルで整えることが可能です。治療の順序や方法は患者様ごとに異なりますが、正しく計画を立てることで、より精度の高い仕上がりと長期的な安定性が期待できます。
「インプラントと矯正、どちらを先に行うべきか迷っている」「自分に合った治療方法を知りたい」という方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
当院では、精密な診断と丁寧なカウンセリングをもとに、患者様にとって最善の治療プランをご提案しています。皆様のご来院を心よりお待ちしております。
当院のインプラント治療に関する詳細はこちら▼
カテゴリ |インプラント|ブログ
-
40歳を過ぎた患者さまへ
- 歯を失う最大の原因
- 噛み合わせ不良で起こる
負の連鎖 - 歯と健康の関係性
- 定期的な検診はあなたを守る